平成26年4月24日
弁護士 藤 野 恵 介
答え
手間と時間が最大のリスクです。
1 訴訟リスクとは
訴訟リスクといいましても,会社側が労働者側に対応する必要性が生じるのは訴訟を提起された場合のみではありません。前回の当コラムで挙げましたように,労働者が駆け込む先は,労基署か労働組合か弁護士等です。したがって,会社側としては,労基署から調査への協力を求められれば労基署への出頭や資料の提出等をせねばなりませんし,労働組合から団体交渉を求められればそれに応じなければなりません。また,訴訟提起や労働審判申立を受けた場合にはそれらに応じなければなりません。
金銭を支払うことになれば,その金銭的負担自体がリスクであるのは当然ですが,それに加えて,これらの対応に要する手間と時間の負担が大きなリスクであることは,単純に時給換算するだけでも容易に想像できます。以下,それぞれの場合について具体的イメージを持っていただけるよう,数回にわたって記述します。
2 訴訟の場合
訴状が届いた場合,無視をしますと,俗にいう欠席裁判となり相手方の主張を認めたことになります(「当事者が…争うことを明らかにしない場合には,その事実を自白したものとみなす」民事訴訟法159条1項本文)。そこで,裁判所の設定する裁判期日までに答弁書を提出し,争う意思を裁判所に伝える必要があります。通常,訴状が届いてから約一か月後に裁判期日が設定されます。それ以降は,約一か月毎に行われる裁判期日までに,準備書面という自分の主張をまとめた書面を裁判所に提出することになります。裁判官は,この準備書面の応酬を通じて争点を把握し,この争点について当事者に主張させていきます。そして,当事者の主張が出尽くした頃,判決なり和解なりで訴訟が終了することになります。つづく。
3 弁護士は必要か
ところで,誤解が多いですし,弁護士としては誤解されている方が都合のいい部分でもあるのですが,実は訴訟は,本人でもできます。実際に私が司法修習生として裁判所研修を受けていたときに,本人訴訟を何度も見ました。したがって,訴状を受け取ったからといって,弁護士に依頼しなければならないわけではありません。
ただ,訴訟にはルールがあり,そのルールを知らないと,意図せずに自白したことになってしまったり,裁判官の意図が読み取れず和解の機会を逸したりという恐れがあります。また,本人では争うべきポイントを発見することが困難です。毎回ご自身で準備書面を作成し,裁判所に出頭するのも手間と時間がかかります。
そのあたりの負担と,弁護士の提示する報酬金額との兼ね合いで,弁護士に依頼するか本人で応訴するか判断いただければと思います。
※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。