[13]民事訴訟の心構え

平成26年6月23日

弁護士   藤 野  恵 介

答え

書面の重要性を認識しましょう。

1 書面主義

これまで幸いにも民事訴訟と関わりのなかった方には誤解されがちですが,民事訴訟の中心は,準備書面のやり取りです。裁判期日に法廷で何か述べても,「話した内容をまとめた準備書面を提出してください」と言われます。もちろん,裁判手続の中には証人尋問もあります。しかし,証人尋問は,証拠に基づく準備書面による主張の応酬が尽くされたあとに行われるに過ぎません。裁判官も,準備書面とそれを基礎づける証拠によって,心証をほとんど決めてしまっています。

2 尋問はハケグチ

人の記憶というのは曖昧です。証人尋問によって当事者がいくら口で言っても,その主張を基礎づける証拠がなければ裁判官は事実認定できません。その意味で,準備書面とそれに基づく証拠によって裁判官が心証を決めるのはやむを得ないことです。証人尋問でいくら相手のあげあしをとっても,あまり影響はありません。私の印象では,当事者本人に言いたいことを言わせないことには怒りがおさまらないから証人尋問で当事者に話す機会を与えるという,いわばハケグチに近い形で運用されているように思います。

3 書面の重要性

このように,民事訴訟においては,準備書面こそが重要です。弁護士に依頼する利点は,単に裁判期日に自ら出廷する手間が省けるといった点ではなく,この準備書面作成を依頼できる点にあります。準備書面を充実したものにできなければ,いくら証人尋問で堂々と主張しても勝つことはできません。

4 認否の効果

準備書面では,相手方の準備書面で挙げられた事実が真実であるのか,真実と異なっているのか答えなければなりません。これを認否といいます。認否には自白,沈黙,否認及び不知の4種類があります。このなかで,沈黙は自白にあたり,不知は否認にあたりますので,実質は自白と否認の2種類になります。ここで,自白には,重大な効果が与えられています。民事訴訟法179条「当事者が自白した事実…は,証明することを要しない。」(自白の不要証効)です。当事者がそれぞれ準備書面で自己に有利な事実を挙げ,相手方がこれを認否することで,自白された事実については証明が不要になります。沈黙も自白と同じ扱いを受けますので,相手方の主張する事実について,残さず認否しなければなりません。この応酬を繰り返すことで,どの事実については証明が必要になるのかが明確になってきます。裁判官は,自分が判断するために明確にしてほしい事実について,当事者に準備書面を書かせます。そうすることで,より争点を絞っていくのです。

※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。