[14]民事訴訟の終わり方

平成26年7月22日

弁護士   藤 野  恵 介

答え

和解は負けではありません。

1 証人尋問

数回にわたり,民事訴訟の訴状を受け取ってから準備書面を提出するところまでの様子を述べてきました。当事者双方が準備書面の応酬をし,有意義な主張が出尽くしたところで,ようやく証人尋問に入ります。弁護士が自分側の証人へ主尋問をし,相手方から自分側の証人への反対尋問があり,そのあとに裁判官からの補充尋問があります。裁判官は,これまでに提出された証拠では判断できない部分を,証人の受け答えから埋めていく作業をします。

2 和解の打診

裁判官は,「訴訟がいかなる程度にあるかを問わず,和解を試みることができる」(民事訴訟法89条)とされています。この打診は,証人尋問前になされることも多々あります。裁判官は,証人尋問前に,既に準備書面と証拠から大まかな結論を決めていることが多いため,証人尋問に入るまえに和解を試みることもできるのです。

3 被告の利益

被告の利益は容易に想像できるでしょう。和解の場合,双方が引くことになるので,被告からすれば,当初の請求額を値切ることができます。被告は,もちろん請求額がゼロという判決をもらいたいのですが,準備書面と証拠の様子から完全に勝つことは難しい場合,和解は意義のあるものです。弁護士からすると,判決では蓋を開けてみないと結果がどちらに転ぶかわからない以上,和解の機会にある程度値切って訴訟を終えるというのは安心できます。

4 原告の利益

原告の利益は理解されづらいところです。勝訴判決をもらっても相手が支払いを拒否した場合,強制執行することになります。しかし,強制執行というのは手間だけでなく予納金という先立つものが必要になります。また,強制執行しても現金化できるとは限りません。被告に目に見える資産があれば,強制執行が功を奏する場合もあるでしょう。しかし,被告に目ぼしい資産がない場合,強制執行する対象がありません。結局,判決は絵に描いた餅にしかなりません。

しかし,和解の場合はどうでしょうか。通常は,和解条項に,期日までに支払いを終えれば多少の減額をするが支払いできなければ全額につき強制執行をかける旨の条件を付けます。これにより,投げやりになりがちな被告を支払う方向へ導くことができます。また,頭金を持参すれば以降の支払いは分割払いにする旨の条項にする場合もあります。これも,被告をとりあえず頭金をかき集める方向へ導くことが出来ます。

絵に描いた餅よりも実利を優先したいという弁護士の意見にも耳を貸していただければと思います。

次回は、事業承継について述べる予定です。

※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。