[17]遺留分に関する特則について

平成26年10月24日

弁護士   藤 野  恵 介

答え  使い勝手がいいとはいえません

1 はじめに

前回に引き続き,経営承継円滑化法に定められている遺留分に関する民法の特例について,中小企業庁のホームページを要約していきます。今回は,特例を受けるための手続・要件です。

2 定義

まず,ここでいう①会社とは,合意時点において3年以上継続して事業を行っている非上場企業を指します。次に②現経営者とは,過去または合意時点における会社の代表者を指します。そして,③後継者とは,合意時点において会社の代表者であり,かつ,現経営者からの贈与等により株式を取得したことにより会社の議決権の過半数を保有している者を指します。

3 要件

「推定相続人全員の合意」を得て,「経済産業大臣の確認」及び「家庭裁判所の許可」が必要になります。自分で記述しながら,かなり面倒な手続であることが実感できます。なお,同円滑化法の3本柱のひとつである相続税・贈与税猶予制度に関しては,平成25年4月より「経済産業大臣の事前確認」の要件が無くなったり,他にも順次要件が緩和されたりという改正がなされています。遺留分の特則に関しても,同じように要件を緩和する方向での改正が進むことを祈るばかりです。以下,それぞれの要件につき述べます。

4 推定相続人全員の合意

後継者を含む遺留分権利者全員の署名押印のある合意書作成が必要です。記載すべき内容については書式例が挙げられています。前回触れました「除外合意」や「固定合意」について明記しなければいけません。

5 経済産業大臣の確認

上記推定相続人全員の合意が成立した日から1か月以内に,確認申請書を経済産業局へ提出する必要があります。その際に,添付資料として,定款,株主名簿の写し,貸借対照表,印鑑証明書及び推定相続人全員の戸籍謄本等が必要になります。1か月という制限は,なかなか厳しいという印象です。合意書作成とのタイミングを計る必要があります。

6 家庭裁判所の許可

上記経済産業大臣の確認を受けた日から1か月以内に家庭裁判所に申立てをし,許可を受ける必要があります。添付書類は戸籍謄本等です。

7 利用状況

施行されてから今年の3月で5年になりますが,これまでの利用状況は69件です。そのうち7割強が従業員20人超の会社です。ちなみに,私の地元である大阪での利用は2件のみです。あまり利用されていない理由は,合意から1か月以内に経済産業局へ確認申請し,同確認から1か月以内に家裁へ許可申立てをするという煩雑さからでしょう。特に経済産業局への申請時に必要な書類が多いことから,慎重に段取りする必要があります。

※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。