[18]労働審判の特徴

平成26年11月25日

弁護士   藤 野  恵 介

答え  迅速な和解実現に特化

1 はじめに

前回まで,中小企業経営承継円滑化法のなかの遺留分に関する民法の特例という小難しい話をしてしまいました。今回から,一旦,⑭回目の記事からの流れに戻って,労働問題の訴訟リスクについて述べます。

2 労働審判の様子

これまで何度かこの場をお借りして,訴訟の流れについて述べてきました。労働審判は,訴訟とは大きく異なります。特徴は,その場で当事者が同席し,口頭で直接主張を展開することにより早期和解を目指すことにあります。

3 口頭での応酬

誤解を恐れずいえば口頭主義が挙げられます。訴訟では、準備書面をやり取りし,法廷では「書面のとおりです」と述べるのみで5分ほどで終了し,なかなか当事者が生の声を出す場面はありません。これに対して,労働審判では,当事者が同席し,審判官が当事者から生の声を聞きます。当然ながら,他方当事者には納得できない内容が含まれていますから,その場で反論します。このような進行方法ですので,当然ながら,2時間ほどかかります。

4 即時解決

訴訟は,期日では準備書面の内容を確認する程度ですので,なかなか話が進みません。解決までに半年や1年が過ぎるのは普通のことです。他方,労働審判は,1回の期日に2時間ほどの時間をかけ,直接主張の応酬をする手続であるため,多くとも3回の期日で終結します。初回期日から和解の話がでることもよくあります。

5 和解ありき

これまで述べてきたように,労働審判は,厳密な事実認定を基にした判決を予定している訴訟とは解決の前提が異なります。労働審判では,厳密な事実認定よりもそれなりの和解が求められます。そして,和解できない場合には審判が下されますが,これに不服のある当事者は,別途訴訟への移行を求めることができます(労働審判法22条)。

6 調停的機能

労働審判に不服がある場合には,改めて訴訟による解決を求めることができることから,労働審判は,訴訟前のとりあえずの和解の場という位置づけができます。当事者からすれば,3回の期日での解決が求められますので,とても慌ただしく準備する必要がありますし,2時間ほど時間をとられるという負担もあります。ただし,その代り,3回の期日でそれなりの解決が図れるというメリットもあります。

7 制度の限界

以上の制度設計上,当事者の言い分が真っ向から衝突し妥協の余地のない事案では,時間の無駄になり,最初から訴訟をしておけばよかったという場合も生じえます。

※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。