平成27年08月24日
弁護士 藤 野 恵 介
答え 立証されれば有罪です。
1 刑事は特殊?
今回は、刑事事件について触れます。意外に思われるかもしれませんが、私に限らず、ほとんどの若手弁護士は刑事事件を担当しています。民事事件に特化した事務所に勤務している弁護士であっても、事務所で受任している事務所事件とは別に個人で受任している個人事件があります。若手弁護士は、そのような個人事件として刑事事件を受任しています。したがって、刑事事件は、まったく特殊な分野ではありません。私も無罪判決をとったことがあります。
2 刑事事件の特徴
刑事事件は、被告人に刑罰を課すかどうかを判断する場です。刑罰を課されると、身体を拘束され、時には生命まで奪われることとなります。このような人権侵害を伴う処分を課してよいかどうかを判断する場ですので、民事訴訟とは異なるルールがあります。
3 刑事のルール
有名なものに、「疑わしきは被告人の利益に」というルールがあります。刑事訴訟法336条には「被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない」と規定されています。また、違法収集証拠排除法則も有名でしょう。
4 ルールから帰結
このルールからいきますと、犯罪の証明ができないときには無罪になります。よく「なぜ犯人なのに無罪になるのか」という質問をされます。これは、真実がどうであるかはさておき、検察官が犯罪について立証できない限り、無罪になるというルールがあるからです。そして、立証できたかどうかの判断は裁判官が行います。したがって、正確には、裁判官が、検察官による犯罪立証が成功したと判断しなければ無罪になることになります。
5 立証の困難性
このように、犯人は、犯罪が立証されなければ有罪になりません。人権侵害を伴う刑罰を課すために、刑事訴訟法は厳格なルールを定めています。したがって、犯人を有罪にするのは至難の業といえます。
6 捜査機関の努力
しかし、日本の刑事裁判では、ほとんどの事件が有罪になります。これは、捜査機関の地道な努力の結果に他なりません。捜査機関は、裁判官が犯罪の立証ができたと判断するように懸命に努力しています。その結果、立証が不十分であれば無罪になりますが、それは裁判官の判断であるので仕方ありません。
7 報道の方法
犯人であるので有罪間違いなしという報道を目にすることがあります。しかし、犯人逮捕から有罪判決までにはかなりの道のりがあるということを感じずにはいられません。
※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。