[34]遺産分割調停にかかる時間

平成28年3月22日

弁護士   藤 野  恵 介

答え 1年以上かかると覚悟してください。

1 調停が必要か

遺産分割が必要になった場合,前回述べましたとおり,裁判所を使わずに遺産分割協議書が作成できればそれで事足ります。しかし,相続人のうちの一人との間で合意が形成できない場合,たとえ他の大多数の相続人との間で合意が形成できていたとしても,家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるほかありません。合意できない云々の前に,そもそも協議に参加しない相続人がいる場合も同様です。

2 調停の流れ

調停は,話し合いの場です。とはいえ,相続人全員が一堂に会して協議するわけではありません。それぞれが入れ違いに調停委員に意見を伝え,調停委員がそれぞれの説得にあたりながら合意形成を目指していきます。その際,相続人間でグループに分かれていれば,調停委員は各グループに意見を聞くことになります。仮に相続人が5人いて,全員の意見がばらばらであれば,調停委員は5組の意見を聞きながら5組を交互に説得することになります。

3 調停の時間

このように,調停は,調停委員が各グループの意見を聞きながら進めていきます。通常,一回の調停にあてられる時間は長くとも半日です。各グループに約30分ずつ調停委員と話す時間が与えられますので,午前中の2時間であれば,自分の持ち時間は30分かける2回の合計1時間です。グループが3組以上になると,さらに持ち時間が減ることになります。そして,調停の日程は,通常1か月に1回です。こう考えますと,なかなか話が進まないことが想像できるのではないでしょうか。

4 調停の前提

そもそも,遺産分割調停の対象になるのは,遺産分割されずに遺されている財産です。特に誤解されがちなのは,普通預金の扱いです。普通預金は,相続とともに相続人に法定相続分に従って分割相続されるとするのが最高裁判所の考え方です。したがって,原則として普通預金は遺産分割調停の対象にはなりません。ただし,相続人間で普通預金を調停の対象にする旨の合意ができた場合には調停の対象にできます。したがって,多くの場合,まずは普通預金を遺産分割調停の対象にするか否かの確認をしなければなりません。このほかにも,そもそもの前提として確認すべき点が多々あります。

5 理解の難しさ

こうした段階を踏んでいると,あっという間に1年くらいは経過します。このように時間がかかる点ついては,依頼者になかなか理解されない部分です。多くの依頼者は,単に遺産を分割するだけの話で,なぜこのように時間がかかるのかという不満をもちます。

※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。

 

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