[35]遺産分割調停での最初の確認事項

平成28年4月20日

弁護士   藤 野  恵 介

答え 相続財産の範囲

1 はじめに

前回,前々回に引き続き,遺産分割調停について述べます。遺産分割調停は,遺産をどのように分けるかを決めるだけという一見単純な調停なのですが,実は確認事項が数多くあり,非常に解決の難しい調停です。今回は,実際にどのような点を確認する必要があるのかを述べます。

2 相続財産の範囲

相続人の確認は当然必要ですが,次に確認するのが相続財産の範囲です。遺産分割調停でどの財産を分割対象にするのかを確認しなければなりません。ここで使い込みの主張がでてきます。特別受益や寄与分というのは,ここで問題になります。特別受益というのは,本来遺産分割で分けるべきものを特定の相続人が既に得てしまっているときのその利益をいいます。したがって,特定の相続人が遺産を先取りしてしまっている場合に,他の相続人から特別受益の主張がなされます。他方,寄与分というのは,本来は特定の相続人の財産であるのに遺産分割の対象財産に含まれてしまっているものをいいます。したがって,特定の相続人が遺産を先取りしたい場合に,他の相続人に対して自分の寄与分を主張することになります。

3 特別受益の条文

民法903条第1項に「共同相続人中に,被相続人から,遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは」特別受益を持ち戻して相続分を計算する旨定められています。

4 寄与分の条文

民法904条の2第1項に「共同相続人中に,被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは」寄与分を控除して相続分を計算する旨定められています。

5 裁判の限界

相手方の使い込みの事実を明らかにして欲しい,または,相手方が隠している相続財産を見つけて欲しいという依頼がよくあります。しかし,真実はわかりません。調停中に反省した相続人が心をいれかえて全てを明らかにすれば良いのですが,そのようなことはありません。また,裁判所はあくまでも当事者の活動を前提に判断するのみで,自ら積極的に真実解明に動くことはありません。あくまでも,相続財産の範囲を確認するのは当事者です。真実はわかりませんが,とりあえずこの範囲を今回の遺産分割調停の対象にしようという確認をするほかありません。

6 具体的分割方法

ここまでの地ならしを経て,ようやく具体的分割方法について話し合うことになります。

 

※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。

 

 

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