[36]証明責任とは何か

平成28年5月20日

弁護士   藤 野  恵 介

答え 民事訴訟の脊髄です。

1 証明責任とは

法律相談を受けていて,なかなか依頼者に説明するのが難しい概念に証明責任というものがあります。証明責任とは,証明する責任のことです。裁判所では,この責任を負う者がこの責任を負う事実を証明できないと,その請求権はなかったことになります。刑事事件で「疑わしきは被告人の利益に」という言葉が使われ,ご存じの方も多くおられるかと思います。この言葉は,証明責任を負う検察官が犯罪を証明できなければ犯罪がなかったこととして扱われることを意味します。

2 責任を負う者

訴える側である原告です。刑事事件の場合,検察官が被疑者を訴えるので検察官が証明責任を負います。同じく,民事事件でも金銭を請求する側が証明責任を負います。例えば金銭の貸し借りの事案で,原告が貸した金額や時期等を証明できなかったとします。そのような状況で,裁判官が「原告がいついくら貸したかよくわからないが,とにかく払え」という判決を書くことはありません。この場合,金銭を貸した事実がなかったこととして扱われますので,請求棄却すなわち原告敗訴になります。

3 脊髄?

証明責任というのは裁判の際にのみ重要になる概念のように見えます。しかし,実は裁判だけの問題ではありません。弁護士は,裁判になる前の話し合いの段階から,裁判になることを想定して行動します。相手が話し合いに応じない場合や,話し合っても話がまとまらない場合に備えています。その際に,証明責任を負う事実は何なのかが重要です。裁判が始まると,裁判官が場を仕切るのですが,その際の道しるべも証明責任です。裁判官は,裁判が和解で終わればそれでよいのですが,和解がまとまらない場合には判決を書かなければなりません。したがって,裁判官も証明責任を意識して場を仕切ります。このように,当事者が証明責任を意識し,裁判官も証明責任を意識して訴訟運営することから,証明責任は民事訴訟の脊髄と言われています。

4 弁護士の出番

様々な案件について,自分がどの事実について証明責任を負うのかを意識しつつ行動できるのが弁護士です。証明責任を理解せずに本人で訴えを提起すると,重要な点につき証明ができず,敗訴します。本人訴訟では,なぜ自分が敗訴するのか理解できない方が多いです。もちろん,証明責任を意識していても,証明が不十分で敗訴することはありますが,証明責任を知らないのは,そもそものルールを知らないということです。弁護士に委任する意義はここにあります。

※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。

 

 

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