[37]弁護士に交渉案件を相談するタイミング

平成28年6月20日

弁護士   藤 野  恵 介

答え 交渉前に相談を

 

1 はじめに

最近,別の相談者に立て続けに同じ質問を受けました。その質問は,「私には初めての経験ですので,先生にお願いした方がよいのでしょうか」という質問です。どちらも未だ訴訟にはなっておらず,交渉段階でのご相談でした。1件は,立退きを迫られているので,立退料の交渉をしてほしいというものでした。もう1件は,不動産売買で少し問題があったので売主と交渉していくらか代金を返してもらえるよう交渉してほしいというものでした。

2 訴訟は難しい?

訴訟は,本人でもできるようになっています。とはいえ,本人で訴訟をすると,前回触れた証明責任についての理解が不十分なために,よくわからないうちに敗訴する恐れがあります。その意味では訴訟は非常に難しいです。相談者も訴訟は難しいというイメージをお持ちですので,相談に来られる時には既に弁護士に依頼する決心をしたうえで相談に来られます。

3 交渉は簡単?

だからといって,訴訟にいたる前の交渉段階であれば簡単というわけではありません。交渉も,仮に交渉が決裂した場合には訴訟になる可能性があるという意味で,訴訟の知識が前提になります。交渉の時には言ったもん勝ちであると考えている方がおられますが,裁判官に無視されるであろう主張をいくら大声でしてみても,相手方が怯むことはありません。少なくとも相手方交渉窓口が弁護士であったり,直接弁護士が出てこなくても相手方が弁護士に相談できる環境にあれば,何となく勢いのある主張をしてみてもこちらに有利な条件は引き出せません。

4 落としどころ

結局,それぞれの交渉の担当者が裁判官の考え方を意識し,それぞれにとって訴訟よりも少しでもマシな妥協点が見つけられれば,そこが落としどころです。あとは,落としどころを意識したうえで,少しでも自分に有利な提案をすることになります。

5 問いへの答え

相手方が妥協してくれる方であれば交渉は成功します。私が受任する際に説明するのはこの点です。相手の出方次第では,弁護士に依頼する必要はないのです。したがって,私からの回答は,「条件Aは裁判所でも認められそうなので,これを拒否してくるようだったら改めて相談に来てください。他方,条件Aの主張が通るならば,あとの条件Bはいけるとこまで主張してみる程度なので,ある程度で妥結してしまってもいいのではないですか。」となります。もちろん,交渉自体を煩わしいと考えて相談に来られた方からの依頼は,躊躇なく受任します。

※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。

 

今回の記事をPDFファイルでご覧いただけます。

get_adobe_readerPDF形式のファイルをご覧いただくには、アドビシステムズ社から無償提供されているAdobe® Reader® プラグインが必要です。「Adobe® Acrobat®」でご覧になる場合は、バージョン10以降をご利用ください。スマートフォンでご覧の方も、対応アプリをダウンロードしていただけます。