[38]遺留分について

平成28年8月22日

弁護士   藤 野  恵 介

 

1 はじめに

「母亡き後,母と暮らしていた兄から母が生前に作成した遺言書を見せられました。それによると,弟の私への相続分は一切ありません。私は,母とケンカして家を飛び出したきりでした。母は,自分を介護してくれた兄に全て相続させることにしたようです。この場合,私は何ももらえないのでしょうか」

2 遺留分とは

遺留分とは,要するに,遺言によっても侵されない相続分のことを言います。条文上は,「兄弟姉妹以外の相続人は,遺留分として……各号に定める割合に相当する額を受ける。」と定められています(民法1028条)。ここで各号に定める割合というのは,ほとんどの場合は法定相続分の2分の1です。したがって,法定相続分の2分の1ではありますが,少なくともこの分は遺留分として認められることになります。

3 遺留分減殺請求

兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があるわけですが,それを侵された場合に,遺留分を請求する権利があります。これを遺留分減殺請求権といいます(民法1031号)。

4 行使の期限

①相続の開始と②遺留分減殺請求権を行使できることを知ってから1年経過,または,相続開始から10年経過すると行使できなくなります。このなかでポイントになるのは,①相続の開始を知った時期です。私の経験でも,依頼者が自身の母親の死を8年間知らなかったという事案がありました。この場合,依頼者が,①相続の開始時である母親の死を知った時期がポイントになります。依頼者が葬儀に参列していれば,遅くともその時点で相続開始を知ったことになります。他方,絶縁状態が長期間に及んだため依頼者には葬儀の知らせすら届かなかったという状況であれば,相続開始を知ったのはかなり遅い時期になります。

5 兄弟姉妹の扱い

遺留分減殺請求権は,被相続人の兄弟姉妹には認められません。ここが相続人の範囲とズレる点です。つまり,誰が相続人になるかという場面では,第1順位は被相続人の子,次は親,その次は兄弟姉妹です。しかし,遺留分減殺請求権は,子と親までにしか認められていません。したがって,被相続人の兄弟姉妹の相続分が侵されていても,被相続人の兄弟姉妹は遺留分すら請求することができません。

6 具体例

冒頭の事案で,お父様も既にお亡くなりだとすると,遺言がなければ二人兄弟で遺産の半分ずつを相続するはずでした。しかし,遺言で全て兄のものとされている以上,弟は,せめて遺留分だけでも請求する他ありません。弟は被相続人の子ですので,遺留分があります。今回は相続分の2分の1が遺留分ですので,弟は遺産の4分の1を遺留分として請求できます。

※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。

 

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