[42]交通事故加害者側の示談

平成29年1月20日

弁護士   藤 野  恵 介

1 実際の相談

Aさんは,人通りの多い市街地を運転中,少し前方を歩いている二人組の一人に当たりました。しかし,Aさんは,自分は徐行していましたし,当たったといってもサイドミラーが動いた程度でしたので,気にせずに運転して帰宅しました。ところが,数日後に警察から連絡がきました。Aさんに当たられた通行人が警察に通報したのです。

2 罪名

道路交通法72条1項には,救護義務及び警察への報告義務が規定されています。これに違反すると,いわゆる「ひき逃げ」にあたり,一発で免許取消処分を受けます。その他,刑事責任としての罰金もあり得ます。

3 よくある勘違い

どう考えても自分の運転が悪い場合や,相手方のケガが大きい場合には,意外と警察に通報するものです。注意すべきは,自分の目から見れば明らかに相手方が悪いうえに,自分の目から見れば相手方のケガが大したことない場合です。このような場合,相手方が警察に通報すると,こちらが救護義務違反及び報告義務違反にあたることになります。特に車同士の場合,こちらとしては,相手方が減点でもされたら可哀想だという好意から,警察に通報せずに済ませてあげたと思いがちです。しかし,それで相手方が通報してしまうと,こちらが通報していないのは間違いないのですから,通報義務違反にあたります。ですので,慎重を期すのであれば,ささいな事故だと思えるような場合でも,警察へは通報した方が良いでしょう。

4 本件の場合

Aさんとしては,まさかケガをさせたとは思っていなかったのです。しかし,被害者は通院して診断書も入手していました。これで,Aさんの救護義務違反と報告義務違反はほぼ確定です。

5 民事責任

免許取消処分や罰金では,被害者への弁償にはなりません。したがって,被害者は,Aさんに対して民事上の損害賠償を請求できます。ここで慰謝料やら示談やらという話がでてきます。保険会社が保険金の支払いをするのもこの場面です。

6 慰謝料とは

慰謝料とは,精神的損害に対する賠償金です。つまり,事故にあったことによるストレス,通院によるストレスまたは後遺障害によるストレス等に対する賠償金です。

7 よくある勘違い

保険会社は,通院費等の実費のほかに,慰謝料も支払います。具体的には,入通院慰謝料や後遺障害慰謝料として支払います。ここでいう各慰謝料は,いわゆる「お詫び代」のように言い値で決まるものではありません。入通院の日数や後遺障害の等級によって,ある程度形式的に算出されます。ですので,慰謝料というものは,保険金に加えて,被害者に言われるがままに支払わないといけないようなものではありません。

※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。

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