平成29年2月20日
弁護士 藤 野 恵 介
1 実際の相談
前回当コラムで取り上げた救護義務違反の事例が他にもありましたのでご紹介します。
以下,Aさんの話によります。Aさんは,幹線道路で信号待ちをしていました。右隣にはバイクが同じく信号待ちをしていました。信号が青になりAさんが発進したところ,バイクがふらつきAさんの車の方に倒れかかってきました。Aさんの車の右側面は少し凹みました。バイク運転手はすぐにバイクを起こして道路の脇に移動しました。Aさんは車に傷をつけられましたが,急ぎの用があったために修理代の交渉もせずにその場を離れました。数日後,警察から電話がかかってきました。バイク運転手がケガをして通報したようです。
Aさんとしては,「相手に非があるところを勘弁してあげた」という気持ちでしたが,Aさんは罪に問われることになります。
2 罪名
まず,救護及び報告をしていませんので,道路交通法72条1項に規定されている救護義務及び報告義務に違反したことになります。これは,いわゆる「ひき逃げ」にあたり,一発で免許取消処分を受けます。さらに,自動車の運転上必要な注意を怠ったことによりケガをさせたとなれば,刑法211条2項に規定されている過失運転致傷の罪にもあたります。その他,バイク運転手から治療費や慰謝料を請求されることにもなります。
3 3つの責任
上記のとおり,交通事故を起こすと,免許取消という行政責任,罰金や懲役という刑事責任,被害弁償という民事責任,これら3つの責任を負うことになります。このうち,俗にいう示談というのは主に治療費や慰謝料についての交渉ですので,専ら民事責任をはっきりさせるために行うものです。しかし,示談は民事責任だけでなく,刑事責任にも影響します。
4 刑事責任に影響
刑事責任を課すためには,裁判をしなければなりません。そして,裁判をするかどうかを決めるのは検察官です。そして,検察官が裁判をするかどうか決める際には、被害回復されているかが考慮されます。つまり,検察官が裁判をするかどうか決める際には,示談状況がある程度考慮されるということです。
5 本件
本件では,行政責任は争いようがありませんでした。他方、刑事責任ですが,幸いにもバイク運転手のケガが小さかったことから,検察官としても示談ができれば裁判まではしない意向のようでした。そこで,本当はAさんにも言い分はあったのですが,可能な限り被害弁償を行うことで民事責任について示談しました。結果,免取にはなりましたが,裁判は見送られました。
※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。
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