[44]交通事故加害者側の示談3

平成29年3月17日

弁護士   藤 野  恵 介

1 事故への対応

もし,社員から「交通事故加害者側として警察から呼出しを受けた」という報告を受けた場合,どう対応すればよいのでしょうか。事前にイメージを持つことが大切です。前回,前々回に引き続き,実際に私が担当した救護義務違反の事例をご紹介します。

Aさんは,交差点で右折して横断歩道を通過するとき,横断歩道を自転車に乗って渡ってきたBさんと衝突しました。Bさんは,倒れはしましたが,弾かれるというのではなく,Aさんの車にもたれかかるように倒れてきたそうです。Aさんは自転車用信号が赤になったのを確認して右折したので,Bさんに対して「赤やったよね」「病院行く?」などと声をかけました。病院に行く気はないとのことだったので,Aさんは急いで職場に戻りました。しばらくして,警察から電話がかかってきました。Bさんがケガをして通報したようです。

2 罪名

Aさんとしては,「相手に非があるところを勘弁してあげた」という気持ちでしたが,Aさんは罪に問われることになります。まず,救護及び報告をしていませんので,救護義務及び報告義務に違反したことになります(道路交通法72条1項)。これは,いわゆる「ひき逃げ」にあたり,一発で免許取消処分を受けます。さらに,自動車の運転上必要な注意を怠ったことによりケガをさせたとなれば,過失運転致傷の罪にもあたります(刑法211条2項)。その他,治療費や慰謝料を請求されることにもなります(民法709条)。このように行政罰,刑事罰及び民事責任という3つの問題があることは前回までの当コラムで述べたとおりです。

3 勘違い

ここでも,Aさんは大きな勘違いをしています。それは,相手が悪いのだから自分は責任を負わないという勘違いです。本件での過失割合はおいておくとして,仮に相手の過失割合が大きい場合であっても前述の3つの問題は生じます。示談して丸く収まったという話を耳にしますが,それはあくまでも民事責任を当事者間で解決したのみです。行政罰と刑事罰については,当事者で示談したからといって解決しません。丸く収まったというのは,たまたま警察に把握されずに済んで運がよかっただけです。

4 本件

本件では,Aさんが身分も明かさずにその場を離れたことから,警察がAさんを捜し出し,Aさんに連絡してきました。最終的に,Bさんとは通院治療費等の民事責任について示談はできたのですが,これまでのAさんの違反歴等もあったことから裁判になり刑事罰も受けることとなりました。もちろん,行政罰も受けました。

※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。

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