[45]債権の時効を中断するには?

平成29年4月19日

弁護士   藤 野  恵 介

答え 認めさせて書面に残しましょう。

1 債権いろいろ

取引先に未払金の請求をしているにもかかわらず,いっこうに支払われない場合,どうしていますか。先日,相談者が大きな誤解をしていましたので,ここで改めて注意喚起したいと思います。

2 時効あれこれ

時効は,永続した事実状態を尊重する制度です。実際は存在したはずの権利が長期間放置されたために消滅したり,反対に,実際には存在しない権利が長期間行使されたことで発生したりします。前者を権利が消滅するので消滅時効,後者を権利を取得するので取得時効といいます。

3 取得時効の例

自分の土地上に工場を建てて長期間使用してきたと思っていたが,実は工場が敷地から隣地にはみ出していた場合が考えられます。種々の条件を満たす必要がありますが,取得時効が認められれば,工場の建てられている範囲の土地につき所有権が認められるかもしれません。

4 消滅時効の例

皆さんにとっては消滅時効の方が身近かもしれません。商品を売却し代金債権を有していたはずが,いつまでも支払われないために消滅する例が挙げられます。時効期間は債権により異なりますが,例えば,小売商の代金債権は2年(民法173条1号)ですし,飲食店の代金債権は1年(民法174条4号)というように極めて短期間です。この期間については,民法改正で変更がありうるところです。

5 時効中断の誤解

冒頭の相談者の誤解は,消滅時効を中断する方法についてでした。いくら請求しても,のらりくらりと話をそらして支払おうとしない人はいます。その際に注意が必要なのは,単なる請求では時効は中断しないということです。時効中断が認められる事由は「請求」「差押え」「承認」の3つあります(民法147条)が,このうちの「請求」とは裁判上の請求を指します。簡単にいえば,訴えを提起することです。つまり,単なる口頭や書面での請求では時効中断しません。催告をすれば時効の完成を6か月引き延ばすことができますが,その6か月以内に裁判上の請求をしなければ時効完成します。

6 するべきこと

手軽に活用できるのが「承認」です。「請求」が裁判上の請求でないといけないのと異なり,「承認」は口頭でも中断事由になります。ですので,口頭でもいいので相手に認めさせ,それを証拠化して残しておくのがよいでしょう。録音でもよいですし,返済約束の書面を作成させるのでもよいでしょう。いずれにせよ,放置は厳禁です。

※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。

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