[49]弁護士の監督官庁はどこでしょうか

平成29年9月19日

弁護士   藤 野  恵 介

答え ありません。

1 よくある話

先日,ある経営者の方から,「うちの顧問税理士は,税金を払わせることしかしない」「税務署の手先だ」という話を聞きました。これは,当たり前です。なぜなら,税理士を監督しているのは国税庁であり,国税庁に睨まれでもしたら税理士の仕事ができないからです。

2 弁護士は特別?

弁護士は,単なる何でも屋であり,賢いわけでも凄いわけでもないのですが,一つだけ特別な部分があります。それが,監督官庁がない(弁護士自治)ということです。弁護士自治とは,弁護士の懲戒権を弁護士自身がもつことをいいます。実は,士業のなかで自治が認められているのは弁護士だけです。例えば,司法書士の懲戒権を持っているのは法務省です。同じように,税理士は国税庁、社会保険労務士は厚生労働省,行政書士は総務省,弁理士は特許庁が監督しています。

3 戦う弁護士?

弁護士自治が認められているということは,弁護士はどの官庁からも独立していることを意味します。つまり,どの官庁にも気兼ねなく意見が言えるし,どの官庁を訴えることもできるということです。例えば,司法書士は法務局とのやりとりを円滑に行うために存在しますし,税理士は税務署とのやりとりを円滑に行うために存在しますし,行政書士は各届出を円滑に行うために存在します。他方,弁護士は,裁判所とのやりとりを円滑に行うために存在するのではありません。相手方とやりとりするのです。

4 懲戒事例

弁護士自身の監督では身内に甘くなると思われるでしょう。そこは色々な評価があると思いますが,私が事例を見る限り,こんな些細なことで懲戒処分されるのかと驚くことがあります。弁護士会が懲戒処分を行った結果は,ネット検索すれば簡単に調べられます。処分の種類として戒告,業務停止及び退会処分があります。退会処分となれば,弁護士は弁護士会に所属していないと業務を行うことができませんので,再登録を目指さねばなりません。しかし,一度退会処分になった弁護士が弁護士会に再登録させてもらうのは容易ではありません。また,業務停止であっても,その期間中は一切弁護士としての業務に関与できませんので,継続している裁判は誰かに引き継がなければなりませんし,顧問契約も解除しなければなりません。退会命令ほどではないにせよ,これだけで弁護士生命の危機といえるでしょう。

5 自治の剥奪

弁護士の不祥事が増え,それにもかかわらず身内に甘いようですと,弁護士自治という特権が取り上げられるかもしれません。

 

※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。

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