平成30年3月20日
弁護士 藤 野 恵 介
1 事例
例えば,自分が介護をしていた高齢の親が亡くなったとします。直後は,葬儀の手配等で慌ただしくなり故人を偲ぶ暇すらありません。少し落ち着いたところで,相続税申告や遺産分割に思いが至るようになります。その段階で,税理士や弁護士に相談される方が多いようです。我々は,まずは相続人調査をするのですが,調査するうちに依頼者ですら知らない相続人が見つかることがあります。どなたかの養子が見つかったり,未婚者だと思っていた方が実は既婚者であったりした場合などです。
2 最初の連絡
一番緊張するのが,最初の連絡です。特に,依頼者ですら会ったこともない相続人に連絡する場合,その方の性格や生活環境等の事前情報が何もありません。まずは相手にしてもらえるのか,取り付く島もないのか。相手にしてもらえたとして,何を質問されるのか。なかでも私が最も注目するのは,最期を看取った親族への配慮があるかどうかです。
3 ひとそれぞれ
相続人の反応はそれぞれです。依頼者の希望もそれぞれです。最期を看取った側からすれば,こちらの苦労も知らずに相続人としての権利のみを主張されるのは許し難いでしょう。他方,関係の遠い相続人の側からすれば,最期を看取った側はそれなりにいい思いをしていたり,さらなる財産を隠していたりするのではないかという不信感を抱くものです。
4 長引く例
相続人間で信頼関係が築けないと,お互いに疑心暗鬼になり協議ではまとまらないため,遺産分割調停を起こさざるを得なくなります。遺産分割調停では,形式的な解決がなされることが多くなります。その場合,介護の努力といった金額に換算しづらい要素は排除されがちです。
5 早期解決例
自身が介護してきたが,法定相続分で形式的に解決できればそれでよいという依頼者がいます。この場合は,相手方弁護士も納得する提案ができますので,最も解決が早いです。また,遠くにいる相続人が,本来なら皆で介護すべきところを何も知らずに任せてしまった御礼の気持ちを示す場合もあります。その場合,少し看取った側に傾斜をつけた形での分割案でまとめることができます。実際に,看取った側がいい思いをしていたのか,財産隠しをしていたのかは不明のままですが,早期解決にはなります。
6 それぞれ
早期解決の場合は,疎遠であった親族間に新たな関係が生まれる余地があります。他方,調停にまで至った場合には,親族関係の修復はほぼ不可能でしょう。交渉相手との信頼関係は重要だと思い知らされます。
※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。
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