[57]黙秘権をご存じですか

平成30年5月19日

弁護士   藤 野  恵 介

1 無罪

つい先日,私の担当していた刑事事件で無罪判決が出ました。本人は自白調書が勝手に作成されたと主張し,裁判所も自白調書の信用性が低いと判断しました。

2 自白調書

刑事裁判では,物と供述が大きな証拠となります。供述調書という単語を目にされることも多いのではないでしょうか。これは,人の言葉が聴き取られて書面にされたものを指します。このうち,自白調書とは,罪を認めた言葉が聞き取られて書面にされたものを指します。

3 書面主義?

本来は,法廷で証人や被告人が話し,それを裁判官が直接聞いて判断するべきものです。しかし実際は,供述調書が大きな意味を持ちます。簡単なことですが,法廷で迫真に迫る証言をしたとして,実はそれ以前に全く反対の証言をしていたとしたらどうでしょうか。その法廷での証言は信用できません。

4 作成者は誰か

供述調書は,取調べの時に作成されます。捜査機関が聴き取りをし,「私は〇〇しました。」という一人称で作成します。被疑者が自分で作成するわけではありません。それで間違いないということで署名押印するのみです。

5 黙秘権

黙秘権があることはよく知られています。しかし,その内容を理解している方は少ないでしょう。黙秘というのは,文字どおり黙ることです。つまり,黙秘権とは,何も話さなくてよい権利です。重要な点だけでなく,世間話も含め,一切黙っていることが権利として認められています。本来,黙秘権があるのですから,調書作成に協力する義務もありません。自らすすんで協力しているだけなのです。ですので,調書の内容が自分の言いたいことと違うようでしたら,調書の加除訂正も求められますし,署名押印を拒否することもできるのです。

6 弁護人の役割

黙秘権があるとは知っていても,調書作成に口出しできたり,そもそも作成拒否できたりすることまでは知らない方がほとんどです。弁護人は,最初に面会したときに黙秘権についての説明から行います。しかし,弁護人がつく前に調書を作成されてしまっているケースもあります。

7 本件

本件では,捜査段階で国選弁護人がつかない事案でした。国選弁護人は,身体拘束されていない事件の場合,捜査段階では選任されません。身体拘束されていない場合は,自分で弁護士を見つけて相談できるからです。しかし本件では,本人は,弁護士に相談せず,捜査機関に呼び出されるたびに出頭し,取調べを受けていたようです。その結果,自分の意図しない自白調書が作成されても署名押印を拒否するという方法すら思い浮かばず,諦めてしまったのです。

 

※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。

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