平成30年9月21日
弁護士 藤 野 恵 介
1 台風関連
自治体での相談例です。台風により隣の建物の屋根が飛んできて自動車が傷ついたため,当該建物所有者に損害賠償請求できるのか答えて欲しいという相談でした。
2 回答の難しさ
この件につきまして,テレビのワイドショーで弁護士が解説しているのを聞きました。その番組では,「天災の場合は請求できません」とキッパリと回答していました。確かに原則はそうなのでしょうが,そのように簡単に言い切ることは,私には怖くてできません。事案によると思うからです。
3 一応の回答
損害賠償請求は,原則として,その損害が発生することに責任がある人に対してしか認められません。ですので,損害発生の原因が相手方ではなく天災にあるのであれば,損害賠償請求は認められません。ただし,損害発生の原因が天災ではなく相手方にあるのでしたら,請求が認められます。
4 立証責任
当コラム36回目にて取り上げたことがあるのですが,裁判では,請求する側に立証責任があります。裁判所に損害賠償請求できると認定してもらうためには,請求する側で立証できなければならないという意味です。損害は何か,原因は何か,そしてその原因発生に責任はあるのかといった点についての立証が必要です。裁判所は,「事実がはっきりしないが請求に応じなさい」という判断はしてくれません。この点で,特に天災の場合,損害発生の原因が天災ではなく相手方にあるという点の立証はとても難しいでしょう。
5 回収できるか
ご存知かとは思いますが,判決で請求が認容されたからといって,回収できなければ絵に描いた餅ですし,実際にそのように回収できないケースはたくさんあります。判決で認められた権利を実現するには,相手方に資産が必要です。
6 結局できるのか
冒頭の悩みに戻ります。おそらくほとんどの弁護士は,請求できるのかという質問の中には,法的に認められた請求権があるのかという意味と,あるとして裁判で勝てるのかという意味と,勝てたとして回収できるのかという意味の3つがあると解釈します。ですので,法律相談に行かれた際には,仮に請求できますよという回答があったとしても,それがどの意味なのか注意して聞くようにしてください。こちらも,できるだけ勘違いのないように回答したいと思う次第です。よく,相談に行ってみたけどどっちつかずの回答しか得られなかったという感想を耳にしますが,多少致し方がないということでご容赦願います。
※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。
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