平成30年10月19日
弁護士 藤 野 恵 介
1 クレームの例
ハウスメーカーからの相談例ですが,他の業種でも同じ話があてはまります。相談は,新築住居を引き渡したのに,例えば玄関ドアのペンキを塗り直して欲しいとか室外機の位置を変えて欲しいとか,このようなやり直しをアフターサービスとして無料で行うよう求められて困っているという内容でした。なかでも,メーカー自身に落ち度があればまだしも,施主がメーカーからのアドバイスを無視してリスクを承知の上で指定した工事にも関わらず,それが気に入らないというクレームがくると無料では応じたくないとのことでした。
2 相談者の対応
これまで相談者は,同じような事案では,何度も施主の元に足を運び,できるだけ要望に応えてきたそうです。理由は,揉めたくないからです。裁判にしたくないからです。しかし,今回はあまりにも要望が多かったため,相談に来られました。
3 どこまで?
どこまで対応するかを決める指標として,裁判ではどうなるだろうかという視点を持つのはいかがでしょうか。つまり,どこまで法的義務があるかという視点です。原則,契約関係ですので,当事者が何について合意したかで義務の範囲も決まります。そうは言っても,なんでも客の指示を聞いていればいいというわけではなく,プロには品質等について知識があるわけですから,素人である客に対して適切にアドバイスする必要があります。建築の例でいうと,施主のイメージどおりに建築したので違法建築であろうが知ったこっちゃないと言って逃げるのは難しいでしょう。なぜなら,通常は,適法に建築することが契約締結時に合意されているからです。それでも,法的義務に違反したからと言って,相手の要望に何でもかんでも応じなければならないわけではありません。応じる義務があるのは,あくまでも法的義務の範囲のみです。
4 裁判で白黒を
どういう内容の合意があったのか。その合意に至った経緯はどのようなものか。実際に工事のやり直しが必要になった原因はどこにあるのか。このような点につき当事者が主張し,各主張を証拠で証明しようとするのが裁判です。裁判官は,各主張が証拠で証明できているかどうか判断します。
5 裁判を恐れずに
裁判になるととんでもなく大きな義務を負わされると勘違いしている方がいますが,それは間違いです。裁判では,法的に認められた範囲での義務を負わされることにしかなりません。それは,裁判を避けるためには負担せざるを得ないと思い込んでいる範囲よりも,はるかに狭いかもしれません。
※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。
今回の記事をPDFファイルでご覧いただけます。