平成28年9月21日
弁護士 藤 野 恵 介
答え 典型例は人違いです。
1 はじめに
先日,私が担当して無罪判決を得た痴漢事件が各新聞に取り上げられました。見出しは「誤認逮捕」です。
2 誤認逮捕とは
当然,犯人でない人を逮捕することを指します。通常想定されるのは,痴漢の隣に居合わせた別の人を間違って逮捕してしまったという事案です。しかし,私の担当した事件は少し状況が異なりました。
3 担当した事件
私が担当した事件は,警察に現行犯逮捕されたのは正に痴漢の常習犯として警察にマークされていた人物でした。その意味では人違いではありません。しかし,そもそも警察がマークしていた人物が痴漢の常習犯どころか痴漢ですらなかった事案でした。その意味での誤認逮捕です。
4 誤認の原因
警察が誤認した原因は被害者の被害申告にあります。すでに被害者が犯人の目星をつけていましたので,警察は,被害申告のまま特定の人物を痴漢常習犯であると誤認したのです。
5 現行犯逮捕
そうして痴漢常習犯としてマークされていた人物が,駅で乗降者が入り交じるなか,被害女性の臀部を押しのけたところを現行犯逮捕されました。
6 判決
まず,裁判官は,痴漢の常習犯である証拠はないと判示しました。そのうえで,今回の痴漢態様をみるに乗降者を押しのけたものとして違和感はないとして無罪としました。
7 被害者の気持ち
被害者は本当に痴漢被害に遭ったのでしょう。それゆえに,痴漢犯人を捕まえようと賢明に犯人探しをしたのだと思います。そうしてようやく犯人を見つけ,警察に逮捕を依頼したのです。
8 警察の努力
警察も被害申告を受け,犯人を逮捕しようとしました。被害申告を受けたのですから,犯人を逮捕したのは当然です。
9 仕方のない部分
今回は,無罪という判断がなされて本当に良かったです。裁判所がしっかり機能した結果といえます。あってはならないのですが,被害者も警察もベストを尽くしても,誤認逮捕は起こりえます。その際に裁判所がきっちり機能すれば,無罪判決が出ます。恐ろしいのは,誤認逮捕が見過ごされて有罪判決が出ることです。
10 学ぶべきこと
誤認逮捕であっても,きちんと審理を経て無罪判決が出れば,名誉は回復されます。問題は,逮捕されるとそれだけで社会的制裁を受ける点です。本件でも,通勤途中に逮捕され,勤務先を無断欠勤することになりました。その後も20日間の勾留を受け,その間,留置場から出られませんでした。少なくとも身元のしっかりした人については逮捕勾留という身体拘束をせず在宅のまま捜査すべきだと思います。
※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。
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