[05]財産のない人は,遺言など不要でしょうか

平成25年9月19日

弁護士  藤野 恵介

答え

絶対に遺言書を作成してください

1 いい遺言の日

私は遺言相続委員会に属しています。11月15日は,「いい遺言(イゴンと読みます)の日」だそうで,大阪弁護士会でも催しを企画していますので,広報を兼ねまして,遺言の必要性について述べさせてください。作成方法等は,後日希望があれば述べたいと思います。

2 遺言しないとどうなるか

遺言がなく相続が開始した場合,法律で決められたとおりに遺産が分割されます(法定相続)。法定相続分は,配偶者と子(孫,または,ひ孫)がいる場合,配偶者2分の1,子2分の1です。子がいない場合で,親が存命の場合,配偶者3分の2,親3分の1です。子も親もいない場合,配偶者4分の3,兄弟(または,甥姪)4分の1です(以上,法定相続分につき民法900条)。

3 法定相続では不都合があるのか

遺言がない場合には法律で決められたとおりに遺産が分割されますと述べましたが,それはあくまでも概念上の話です。相続人らは,実際に財産を管理処分しなければなりません。せっかく大いなる遺産を相続しても,利用できなければ絵に描いた餅です。

4 不都合の例

価値ある遺産の代表的なものに,金銭と不動産とがあります。現金であればともかく,預金であっても,口座名義が非相続人である以上,相続人のうちのひとりだけで窓口を訪れても,預金の引き出しを拒否されることがあります。また,不動産の場合,相続人全員の共有となりますが,不動産の処分も相続人のうちのひとりだけではできません。相続人のうちのひとりだけでは相続財産をどうにもできない場合,残りの相続人全員に同意をもらうことになります。預金の場合,銀行から相続人全員の署名押印と印鑑証明書を求められることがあります。不動産についても同様に相続人全員の協力が必要になります。逐一同意をえる手間を省くため,通常は遺産分割協議をし,全遺産につき分け方を決めてしまいます。

5 相続人の協力が得られない場合

遺産分割協議をするには,相続人全員で集まることが必要です。そもそも集まらない相続人もいますが,集まったとしても,分割方法につき反対する相続人がいれば,協議は成立しません。この場合,遺産分割調停の申立てをし,裁判所で話し合うことになります。それでもまとまらない場合,遺産分割審判により裁判所が決めることになります。

こうした過程を経て,ようやく相続人それぞれが自己の相続した財産を処分できるようになります。

6 遺言書作成の効果

適切な遺言を作成し,何を誰に相続させるのかを決めておけば,以上に述べた相続人間での交渉が一切不要になります。遺産の大小にかかわらず遺言を作成していただきたい理由はここにあります。

※なお,ここでの記述は,あくまでも私個人の意見ですので,その点,ご了解ください。